腎臓病の熱中症対策│経口補水液の正しい使い方とおすすめの水分補給
昨今の日本の夏は30℃で涼しい方、35℃以上が当たり前になってきました。そこで注意をしなくてはいけないのが熱中症です。
熱中症対策の王道は水分補給と塩分(ナトリウム)摂取ですが、腎臓病の方はこの塩分を制限しなくてはなりません。
そんな通常とは違う腎臓病の方の熱中症対策。特に誤解の多い「経口補水液」についてご紹介します。
目次
- この記事で覚えてほしいこと
- 腎臓病だと熱中症に気を付けなくてはいけませんか?
- その症状、既に熱中症です
- 腎臓病の方の熱中症対策は「塩分」補給が難しい
- 腎臓病の方の熱中症・脱水対策①水分補給
- 腎臓病の方の熱中症・脱水対策②ミネラル補給
- ※腎臓病の方は経口補水液の飲みすぎに注意!
- 腎臓病における経口補水液の目安量
- ※腎臓病の方は経口補水液の避けすぎに注意!
- Q:経口補水液とスポーツドリンクどっちがいいの?
- Q:お茶やコーヒーのカフェインは利尿作用がないと聞きましたが本当ですか?
- 結論:腎臓病の方の熱中症対策は「暑いと感じない状況にいること」
- 他にも夏場の腎臓病に関する記事を多数掲載しています。ご参考ください。
- 参考資料
- ご質問・ご相談はこちら
この記事で覚えてほしいこと
・なぜ腎臓病の方が熱中症に気を付けないといけないか分かる!
・水分補給の基本は「水かお茶」。
・経口補水液やスポーツドリンクを日常の水分補給としてはいけない!
・経口補水液は脱水の治療だと認識する。
・冷房の効いた部屋にいることが一番の熱中症対策!
腎臓病だと熱中症に気を付けなくてはいけませんか?
はい。熱中症は万人が気を付けるべきですが、
腎臓病の方、特に高齢の慢性腎臓病患者さん、透析中の方は健常人よりもより熱中症に注意をする必要があります。
その理由としては
①熱中症への対策の難しさ:
・塩分やカリウムといったミネラルを調節する機能が弱い
・処方される高血圧治療薬や利尿薬の影響で脱水になりやすい
・体水分量が少なく、汗もかきにくいので体温コントロールが難しいので熱がこもりやすく、結果熱中症になりやすい。
②熱中症による腎臓病のさらなる進行
・熱中症による脱水が腎臓病を進行させてしまう
・熱中症対策の王道といわれる、塩分補給やスポーツドリンクを念のため取りすぎた場合の害が健常人よりも大きくなってしまう
このような理由より、熱中症対策に一工夫・注意点があるのが腎臓病の方です。
補足:以下、腎臓病とはeGFRが60以下の人と定義しています。
その症状、既に熱中症です
熱中症は重症度により3段階に分けられます。
重症度 | 熱中症の症状 |
軽度 | めまい・筋肉痛・筋肉のけいれん |
中等度 | 頭痛・吐き気・嘔吐・下痢・倦怠感・虚脱感・失神・気分の不快・判断力や集中力の低下 |
重度 | 意識障害・手足の運動障害・おかしな言動や行動・過呼吸・ショック症状 |
熱中症の症状と言ってどんなものを思い浮かべますか?
・意識不明で倒れてしまう。異常な体温。ろれつが回らない…これらは労作性熱中症と呼ばれ、短時間に急激におこる熱中症症状です。それとは別に気づきにくい熱中症があります。
高齢者の熱中症や脱水は自覚症状なくじわじわ進みます。
それが高齢者で注意が必要とされる非労作性熱中症と呼ばれるものです。
これは日常生活の中でじわじわと徐々に進行し、周囲の人が気づけない、気づいたころには重度になっているという危険なものです。
高齢による体温調節能力の低下、低栄養や水分摂取不足、高血圧・糖尿病・腎臓病といった持病があると悪化しやすいといわれ、汗をかいていなくても、室内にいても隠れ脱水になり、やがて熱中症に至るものです。
以下のような症状があればそれは熱中症の始まりなので、水分・電解質の補給が必要です。
・なんとなく疲れた
・最近疲れやすい
・ぼーっとすることが増えた
・足などツリやすくなった気がする
・喉が渇いた、口や舌が乾燥する
・食欲がない
・尿の量が少ない、尿の色が濃い
腎臓病の方の熱中症対策は「塩分」補給が難しい
熱中症予防の定石はこまめな水分補給と塩分・ミネラル補給です。
しかし、腎臓病の方は塩分の取りすぎがさらなる腎機能の悪化につながってしまいますし、
過度なカリウムは健常人とは違い、高カリウム血症の恐れがあります。
そのため、塩飴・塩タブレット・経口補水液・スポーツドリンクの使用には医師への確認が必要とされています。
参考:OS-1「高血圧、腎臓病、糖尿病等の疾患のある方でも飲めますか?」
腎臓病の方の熱中症・脱水対策①水分補給
腎臓病の方は健常人と比べ脱水になりやすい状態です。
そのため、小まめな水分補給が求められます。
この水分補給は屋内・屋外に関わらず、汗をかいていなくても、のどが渇いていなくても
習慣的に半ば強制的にに飲むものです。
Q:腎臓病の方におすすめの飲み物はなんですか?
A:水分補給目的でのおすすめの飲み物は「水」です。
これはカフェインや糖分、余計なミネラルが入っていないためです。
腎臓病の方は排出能力が低下しているので、余計なものを取る余裕がありません。
そのため、水や水が苦手であれば麦茶をおすすめします。
Q:水分補給の仕方にコツはありますか?
水分補給は実は「喉が渇いていなくても」行うことが重要です。
そのためのルール作りが肝腎です。
例えば下記のようなルールをおすすめします。
①1時間に1回、コップ1杯の水を飲む。
②外に出かける前は追加で1杯飲む。
③外から帰ってきたら経口補水液をコップ半分、次に水をコップ半分飲む。(※経口補水液と水は混ぜない。別々に飲む)
腎臓病の方の熱中症・脱水対策②ミネラル補給
発汗した時失われた塩分やカリウムといった電解質は水では補給できません。
この大量に汗をかいて、脱水になった時に
「水と電解質の補給として」初めて飲むのが「経口補水液」です。
発汗したら、脱水になったら「経口補水液と水を同量飲む」と覚えてください。
ただしeGFRが30以下の重めな腎臓病の方、カリウム制限を医師に指導されている方は必ず医師に経口補水液の使い方を教えてもらってください。
※腎臓病の方は経口補水液の飲みすぎに注意!
経口補水液は熱中症予防での日常の水分補給には使いません。
脱水の治療に使うものです。
ごくごく水のように毎日1~2本飲むものではありません。
汗をかいていなかったり、脱水の症状が出ていなければ飲む必要がありません。
経口補水液には大正製薬の「OS-1®」、コカ・コーラ社の「アクエリアス経口補水液®」といったものがあります。
これらは「病者用食品」といい、脱水症の治療(食事療法)に用いるものです。
病者用食品とは、特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされている食品です。
経口補水液の場合、特定の疾病とは「脱水症」を示し、
軽度から中等度の脱水症における水・電解質の補給、維持に適した病者用食品として認可されています。
これは健常人、腎臓病の方でも変わりません。
※注意!腎臓病だから熱中症に注意が必要、だから経口補水液を予防のため毎日飲むことは明確に間違った知識です。今すぐおやめください。
腎臓病における経口補水液の目安量
目安量は腎臓病のステージや飲んでいる薬、心臓病や糖尿病といった合併症の種類によって様々です。
また、汗の量にも影響されます。
この目安量を定めるためにも一度かかりつけの医師、腎専門医や薬剤師にご相談ください。
※腎臓病の方は経口補水液の避けすぎに注意!
経口補水液を絶対に飲んではいけないわけではありません。
脱水時には経口補水液に頼る必要があります。
□大量に汗をかいてしまった、
□汗をかいていないが尿の色が濃い
□倦怠感や疲れ、意識がもうろうとする
といった症状がある場合はためらわずに飲んで下さい。
コップ1杯程度をゆっくり飲むことをおすすめします。
※1本一気飲みはおやめください。
大塚製薬の経口補水液OS-1ならばパッケージに100mL毎のメモリがありますので、まずは1メモリ分100mLをお飲みください。
Q:経口補水液とスポーツドリンクどっちがいいの?
A:電解質補給という意味では経口補水液の方が優れています。
スポーツドリンクは糖分が多すぎ、そこまで電解質は多くないので腎臓病の方には向いていません。
特に糖尿性腎症の場合は、スポーツドリンクの大量摂取は血糖値の急上昇をまねき、真逆の脱水症状の引き金になりかねません。糖分の少ない経口補水液の方が発汗時のミネラル補給には適しています。
ただし、水分補給の基本はやはり水といことも忘れないでください。
弊社としておすすめする飲み方は、水と経口補水液を同量飲むことです。
栄養成分表示(100mL当たり) | 水50mL+ 経口補水液50mL | OS-1® | ポカリスエット® |
エネルギー | 5 kcal | 10 kcal | 25 kcal |
炭水化物(糖質) | 1.25 g | 2.5 g | 6.2 g |
食塩相当量(Na) | 0.146 g | 0.292 g | 0.12 g |
カリウム | 39 mg | 78 mg | 20 mg |
リン | 1.2 mg | 2.4 mg | 0 mg |
マグネシウム | 3.1 mg | 6.2 mg | 0.6 mg |
Q:お茶やコーヒーのカフェインは利尿作用がないと聞きましたが本当ですか?
伊藤園が2023年に奈良女子大学との共同研究で発表した件です。
弊社としての見解は
腎臓病の方、高齢者ではまだ研究段階なので利尿作用がないか分かりません。
万全を期すならば、水分補給には「水や麦茶」をおすすめします。
これは健康な若い人の研究結果であり、高齢者では確認されていません。
軽度脱水時の緑茶飲料の飲用が、尿排泄を促進しないことを確認したもので、尿量について言及がありません。利尿作用とは頻度を上げるものではなく尿量を増やすものなのでさらなる研究結果と公表を期待します。
結論:腎臓病の方の熱中症対策は「暑いと感じない状況にいること」
腎臓病の方の一番の熱中症対策は「涼しい室内にいること」+「定期的に水を飲むこと」
結局のところ、腎臓病の方は汗をかく状況を避けることが一番!
前述のように、腎臓病の方は汗で失ったミネラルが補給しにくい状況にあります。
健常人であれば、食事からもナトリウム・塩分が補給できますが、塩分制限している方は食事からの補給も難しい。
失った塩分・ミネラルの補給方法が難解で難しいのであれば、汗をかかないのが一番なのではないでしょうか。
事実、日本救急医学会を「暑い時間帯の不要不急の外出は控えて」と緊急会見を2024年7月8日に開いています。健常人ですら外に出るべきではないのです。
塩分・ミネラルの補給は汗で失った塩分ミネラルを補うためのものですので、
汗をかく状態に極力ならないことが腎臓病の方には求められます。
熱中症の危険度は環境省が発表しています。
エアコンは設定温度ではなく室温が28℃以下がポイント!
28℃という値も絶対ではなく、汗をかかない、快適に過ごせる室温を28℃以下でお探しください。
そして重要なのは室温だということ。
決してエアコンの設定温度ではありません。
この炎天下、猛暑のなか設定温度28℃では室温が28℃にならないことが大いにあります。
温度計を食卓などご自身が一番いる環境に置くことで、実際の温度を把握することが大切です。
①室温が28℃以下になるようにエアコンを設定
②寝ている間も基本はつけっぱなし
③寒く感じたら、エアコンを切るのではなく掛布団を増やして対応
他にも夏場の腎臓病に関する記事を多数掲載しています。ご参考ください。
参考資料
『高齢者の腎障害』日本老年医学会雑誌 55 (3), 338-344, 2018-07-25
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- この記事を書いた人
- 純炭社長:樋口正人
株式会社ダステック代表取締役社長。
1985年3月:千葉大学大学院理学研究科生物学専攻 修了
1985年4月:中外製薬株式会社入社。新薬研究所配属腎性貧血治療薬エリスロポエチン(ESA製剤)の創薬に従事。
1998年4月~2001年3月:通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(岡修一先生)技術研修員
1999年4月~2008年3月:筑波大学先端学際領域研究センター(山本雅之教授)客員研究員
2007年4月~2014年3月:金沢医科大学非常勤講師
2007年10月:中外製薬退社
2009年5月:株式会社ダステック設立
2015年5月:純炭粉末の米国特許取得(ADSORPTION CARBON, AND ADSORBENT Patent No.: US 9,034,789 B2)
2015年5月:純炭粉末の日本特許取得(吸着炭及び吸着剤 特許第5765649号)
「出す健康法」で健康寿命を延ばすのが夢!
最近は「腎臓にやさしい純炭社長食堂」のシェフとして社員さんの昼食を調理しています(笑)。