こんにちは。
純炭社長@糖質制限中の樋口です。
カテゴリ「理系研究職の生き方」では沼津東高校で行った「職業を知るセミナー」の内容や
生徒さんからの質問+私自身の研究者としての経験を書き綴っています。
今日は「仕事をしていて、楽しいことや苦労することは何ですか?」
という生徒さんからの質問にお答えする形で副作用のことを書きたいと思います。
エリスロポエチン(EPO)は腎性貧血治療薬として有効性が高く、尚且つ、
安全性も高い優れた医薬品として患者さんに大変喜ばれていました。
ところが発売後9年を経過した1999年ころから、
アメリカのジョンソン&ジョンソンが販売しているエプレックス(EPO製剤の一種)を投与された患者に
赤芽球癆(せきがきゅうろう)という重篤な副作用が頻発したのです。
赤芽球癆は何らかの原因で赤血球が作られなくなる病気です。
エプレックスを投与された患者ではエプレックス(遺伝子組み換えEPO)に対する抗体ができ、
その抗体が患者の体内で作られる内因性EPOの作用までも抑え込んでしまったため、赤芽球癆が発症していたのです。
エリスロポエチン製剤にはキリン・アムジェングループが作ったエポエチンアルファ(日本での商品名はエスポー)と
中外・ジェネティックインスティテュートグループが作ったエポエチンベータ(商品名エポジン)の2種類が存在します。
欧米の副作用報告を見ると圧倒的にエポエチンアルファ(しかもジョンソン&ジョンソン製)で赤芽球癆が頻発していたため、
エプレックスの安定性に問題があるのではないか?と考えられていました。
しかし、対岸の火事だと放置しておくわけには行きません。
中外製薬の育薬研究部では副作用が発生した場合を想定して、3種類の検査方法を確立して国内での副作用出現に備えていました。
そして、2003年6月。ベルリンで腎臓関係の国際学会(EDTA)が開催されている最中、
ついに副作用の可能性のある患者さんが発見されたのです。
医薬品は厳密なルールの上に副作用報告が義務付けられており、予期せぬ重篤な副作用の場合は、
メーカーが副作用の可能性を知った日から15日以内、
予見できた重篤な副作用の場合には30日以内に厚生労働省に届け出なくてはなりません。
エポジンを担当していた主だったメンバーがベルリンに行ってしまっていたため、
急遽、私が会社を代表して山口県の病院に行くことになりました。
ところが訪問先はアンチ中外製薬で知られた血液内科の先生。
噂では、息子さんが中外製薬研究職の就職試験で落とされてしまい、その後、キリンの研究所に入社したとか・・・・
最悪の場所で最悪の副作用が発生した訳です
平身低頭、誠心誠意を込めて協力をお願いし、保管されていた治療期間中の血清サンプルを分けていただきました。
エポジンの副作用と断定するためには赤芽球癆発症前後でエポジンに対する抗体で生じているか?を調べなければなりません。
ところが、副作用の疑いのある患者さんは県内外の3つの病院を転院し、
EPO製剤も中外のエポジンとキリンのエスポーの両方が投与されていました。
私は転院先の全ての病院を回り、事情を説明して、血清が残っていないか探してもらい、
保管されていた全ての血清サンプルを集めました。
放射性同位元素で標識したエポジンやEPO依存性細胞株など長年のEPO研究で蓄積してきた研究ツールを駆使して検査した結果、
間違いなく赤芽球癆発症直前から抗エポジン抗体ができていることか確認でき、30日以内に副作用報告することができました。
育薬研究部が設立されずにEPO研究が途絶えてしまっていたら、このような迅速な副作用対応は不可能だったでしょう。
後日談ですが、最初に訪問したアンチ中外の先生は、誠心誠意検査して対応したところ、
中外製薬への不信感は解け、その後親しくお付き合い頂ける関係になったそうです。
苦難は幸福の門ですね。
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